
1)膝骨壊死とは?
専門的には“大腿骨顆部骨壊死”と言います。
“壊死”なんていう言葉は聴きなれないかと思います。
壊死とは、
“体の組織や細胞が局部的に死ぬこと。冷・熱・毒物・血流障害・外傷、細菌やウイルスの感染などによって起こる。”
と広辞苑には書いてあります。
すなわち、骨の一部分が死滅することです。具体的には膝関節を構成する大腿骨の関節面近くに発生しやすいのです。
発生頻度は報告によって様々ですが、変形性膝関節症に比べると極めて少ないです。
骨壊死は大きく次の2つに分かれます。
1)特発性膝骨壊死
2)二次性膝骨壊死
2)の二次性膝骨壊死はアルコールの多飲、ステロイド剤の大量投与、特殊なものでは潜函病(急激な水圧の変化によってもたらされる)などが原因となります。
ここでは、1)の特発性膝骨壊死の症状と治療について説明します。
右図は正面から膝を見たレントゲン写真です。
矢印部分に楕円形に透けて見える部分が典型的な骨壊死部です。
2)特徴的な症状
症状は比較的特徴的です。急に出現する膝の痛みで始まります。
続いて膝関節の張れや水がたまるという症状が出現することが多いです。痛みは、変形性膝関節症では動作時の痛みが主体であることに反して、膝骨壊死では安静時、特に就寝時の痛みが特徴的です。
壊死は組織が急速に死滅するため、痛みが強いのです。
この時期に病院を受診しても、レントゲン写真には写らないことが多いので、変形性膝関節症と診断されて治療されることがあります。
また、関節内にステロイド剤やヒアルロン酸などの注射をされることもありますが、多くの場合効果がありません。このようにして数ヶ月経過しますが、膝の痛みは続くため、主治医はもう一度レントゲンを撮ります。この時期になると壊死部がはっきりとするため、上の写真のように骨内に影が見えるようになるのです。この病気は骨に発生します。正確に言うと骨と軟骨の境目に近い骨です。
もともとは関節内に病変があるわけではありませんので、関節内に注射をしても痛みは軽減しないのです。
早期発見のためにはMRIが助けになります。
MRIにはレントゲンに移らない早期の病変もはっきりと写ります。
左の写真の「A」がMRI画像です。
矢印部分に明瞭な骨壊死像が見られます。
「B」は手術時の写真ですが、大腿骨の関節面に大きなえぐれた部分が見られます。
骨壊死は軟骨の裏張りを担当する骨の部分に壊死が生じるため、進行すれば表面の軟骨はもちろんのこと骨の深い部分にも影響が及びます。
3)治療について
壊死部位は骨ばかりではなく軟骨も死滅していますので力学的に弱くなっています。
体重がかかれば潰(つぶ)れる危険があります。潰れてしまうとO脚になります。
さらに放置すると末期変形性関節症に進行します。
具体的には下のレントゲン写真です。

左の矢印部分が骨壊死部です。
左の写真では関節の間が開いていることがわかりますが、進行した右では関節の隙間が狭まっていることがわかります。すなわち、末期変形性関節症に進行してしまったのです。 壊死部位が小さい場合、脚がO脚でない場合には保存的治療で効果があることもあります。
膝の内側にかかる体重を少しでも軽減するような装具を着けたり、足底板という装具を靴の中敷に使用したり、必要があれば松葉杖などにより膝にかかる体重を制限します。
また、痛みをとるために消炎鎮痛剤の内服やシップの使用などもある程度の徐痛という意味では効果的です。
さらに重要な治療は筋肉のトレーニングです。これは変形性膝関節症の保存的治療にも共通することですが、壊死部位が再生して硬くなれば潰れる危険性は少なくなります。それまでには半年から1年近くかかりますので、長い期間の辛抱強い治療が必要となります。
骨壊死部のサイズが大きかったり、O脚の場合には手術治療が効果的です。
手術の方法ですが、変形性膝関節症のところで書きましたように人工膝関節全置換術(TKA)、人工膝関節片側置換術(UKA)や高位脛骨骨切り術(HTO)が必要となります。
人工膝関節片側置換術(Unicompartmental Knee Arthoplasty; UKA)とは悪い部分の関節だけを置換する手術であり、全置換術に比べて侵襲は少ないのですが、基本的には手術後はTKAと同じような管理が必要です。ここで重要なことは、膝骨壊死は急に発症する病気であるために変形性膝関節に比べて、膝関節の曲げ伸ばしが強く障害される例は少ないのです。膝の曲げ伸ばしが強く制限される例は、痛みによってそうなっているのであり、病態が改善して痛みが消失すればまた元通りになる例が多いのです。
TKAやUKAを行うと、人工関節自体の問題により膝の曲がりが制限されるため、膝関節自体の機能はHTOに比べて悪くなることは当然です。
また、スポーツや登山などの膝にストレスが集中するような活動は慎まなければならなくなります。一方、OWHTOでは前述しましたように、自分の膝関節が残りますので、手術後の関節機能は人工関節に比べて優っていると言わざる得ません。もちろん、スポーツ活動などをはじめ、日常生活動作についての制限は極めて少ないのです。
これまで、多くの膝骨壊死の患者さんに対してOWHTOを行ってきましたが、手術後は約7割の方が再び正座ができるようになりました。中には、病気になるまで続けてきたジョギングを再開しているかたもいらっしゃいます。
OWHTO施行後の経過ですが、ほとんどの患者さんが“手術前にあったあの痛みが、手術の翌日から全くなくなりました”言っておられます。骨を切ってその部分を広げてO脚からX脚にするために、骨を切った部分にしっかりと骨が形成されるまでは、体重がかかると多少痛みがあります。しかし、骨がしっかりと形成されれば、痛みは自然に消失します。その期間は個人差もありますが、およそ3ヶ月程度です。多くの患者さんは手術後2年で骨を固定するために入れたチタン製プレートを取り除く手術を行います。
その手術の時に関節鏡にて関節内を観察しますと、ほぼ全例で骨壊死部は軟骨のような組織で完全に覆われて修復されていることが観察されました。“軟骨のような組織”と書いたのは、完全な元通りの軟骨組織ではないからです。正常な軟骨組織は特殊な形態をしています。我々は、硝子軟骨と呼びます。一方、“軟骨のような組織”とは線維軟骨と呼ばれ、肉眼的に軟骨のように見えるのですが、顕微鏡で観察すると硝子軟骨とは異なる組織であるからです。
元通りの軟骨組織が再生するlことはほとんどありませんが、この“軟骨のような組織”で十分なのです。
では、なぜOWHTOを行うと痛みが消えて治るのでしょうか?まず、この手術を行うことで体重線が内側から外側へ移動することは前にも書きました。これによって、内側の関節にかかる圧力が小さくなるために骨壊死部が潰れないのです。また、骨切り部に新しく骨を形成しようとしてたくさん血管が新たに形成されます。これによって、血流の悪かった骨壊死部への新たな血流が再開されると考えられます。
下に膝骨壊死に対してOWHTOを施行した後の経過のレントゲン写真を示します。
壊死部の陥没は残存しますが、痛みはほぼ完全に消失し、日常生活には全く不自由を感じなくなりました。

まとめ
変形性膝関節症に対する関節を温存する外科的な治療法
高位脛骨骨切り術(opening wedge high tibial osteotomy)の特徴
自分の関節は温存され機能は維持される。
日常生活に制限がなく、スポーツ活動も可能となる。
痛みは極めて改善される。
手術1週後より歩行訓練を開始、3~4週間の入院で歩いて退院できる。
症例によっては消失した軟骨が再生する。
矯正に使用する人工骨(ß-TCP)は2~3年程度で自分の骨に置換される。
膝関節の曲がりの良い方は手術後に正座可能となることが多い。
以上述べてきましたが、ご心配があれば専門の外来を受診されることをお勧めします。
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湘南第一病院非常勤医師
(毎週水曜日AM., PM. 膝専門外来担当)
早稲田大学総合研究機構客員教授
横浜国立大学非常勤講師
横浜市立大学医学部整形外科准教授
竹内良平
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